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見出し配転命令を断ったら会社を辞めろと言われました

Q:配転命令を断ったら会社を辞めろと言われました

Aさんは遠隔地へ配転命令を受けましたが、同居している両親の体調が悪く面倒をみており、娘も障害をもっていて同一病院での経過観察が望ましいとされているので、配転命令に応じられないと断ったところ、「応じられないなら辞めてもらうしかない」と言われましたが、どうしたらよいでしょうか。

A:配転命令の根拠、効力について争うことが出来ます

介護すべき家族をかかえる労働者に対する遠隔地への配転は、労働者に著しい不利益を負わせるもので、配転命令の濫用として無効となるケースであり、種々の方法で争うことができます。

企業の人事異動

企業は、経営上必要とする適格者を採用し各職場に配置しますが、必要とする職務の内容は企業活動に応じてさまざまに変化するし、労働者側も1つの職務に熟練し能力が向上するにつれて、より高度の職務を担当することができるようになります。また、終身雇用、年功序列型賃金で特色付けられているわが国の労使関係においては、従業員の人事異動によって昇進・昇格を行うとともに、定年制による新陳代謝を図ることが必要になってきます。人事異動は、このような企業経営上の必要性から行われるものですが、今日のように加速度的に進行する技術革新や経営の多角化に伴って、不採算部門の閉鎖・縮小、外注・下請化(アウトソーシング)や多国籍化といった企業経営の変動の中で、配転、出向、転籍といった人事異動が飛躍的に増加しているのです。
人事異動にはいろいろな形態がありますが、企業内の異動と企業外の異動に大別することができ、前者は一般に「配転」と呼ばれ、後者にはさらに従業員としての身分を保持したまま、他の企業の指揮命令に服して働く「出向(在籍出向)」と、元の会社の従業員としての身分を失い、異動先の会社の従業員となる「転属(転籍・移籍あるいは移籍出向)」とがあります。

配転

配転は通常企業内における所属部署の変更のことを意味しており、これには職種、職務の変更や勤務場所の変更(転勤)も含まれます。配転命令は、使用者が労働者に対して一方的に配転を命ずることですが、労働契約の締結に際して、「就業の場所および従事すべき業務」は、使用者が明示すべき条件とされており(労基法15条)、この範囲内の転勤を意味する配転は、労働契約の履行として使用者は一方的に行うことができますが、これを超える転勤や職種の変更を伴う配転は、労働契約の内容変更になり、使用者が一方的に命ずることはできないのです。
しかし、学説・判例の多くは、あらかじめ労働協約や就業規則あるいは入社時の合意等により、「業務上の必要とされるときは配転を命ずることがある」旨の約束(事前の包括的同意)をしていれば、その都度の同意ないし配転を命ずることができるとし、最高裁も、①労働協約や就業規則に、「会社は業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる」旨の定めがあり、②現に労働者(特に営業担当者)が頻繁に転勤をしており、③入社の際に勤務地を限定する旨の合意がなかったこと、という事実を前提として、使用者は労働者の個別的同意なしに勤務場所を決定し、またはこれに転勤を命ずる権限を有するとしています(東亜ペイント事件・最二小判昭61.7.14判時1198号149頁)。

配転命令への対処方法

配転命令権の根拠がなく、あるいはあったとしても法令違反や権利濫用にあたるような場合には、使用者に対して配転命令を出さないことや撤回を求め、仮処分、労働審判、本案訴訟の提起を検討するべきでしょう(なお管轄につき、カワカミ事件・東京高決平14.9.11労判838号24頁)。この場合、従前の職種または勤務場所における地位確認の本案訴訟や、それらの地位を仮に定めるという内容の仮処分申立てが考えられますが、配転命令無効確認や配転命令の効力停上の仮処分申立てという例も考えられます。また、労働審判を申立て、労働審判法29条(民事調停法12条)による審判前の措置を求める(例えば、「労働審判手続が係属している間は、配転命令の効力を停止するよう相手方に命ずることを求める」、若しくは「労働審判手続が係属している間は、配転命令違反を理由として、申立人を解雇してはならないことを相手方に命ずることを求める」)という方法も考えられましょう(この措置に従わない場合には過料の制裁があります。労働審判法32条)。
次に、異議をとどめてとりあえず配転に応じ後日争う方法があります。これは、一定期日までに配転先に赴任しないと解雇等の何らかの不利益処分が行われる可能性のある場合に、異議をとどめて(確実を期すために文書によるべきである)配転先に赴任したうえで、配転命令の効力を争う方法です。配転命令について、労働契約上の根拠がないとか権利濫用にあたると簡単に言い切れるケースはそう多くないうえ、裁判例も流動的であり、しかも、配転を拒否して新任地に行かないということは、業務命令違反を理由とした懲戒解雇などを誘発する場合があるので、このような方法も検討されるべきでしょう。また、労働組合がある場合には、配転命令を出された労働者を対象にして指名ストを行い、赴任を拒否して配転命令を争う方法があり、この場合の指名ストは、正当な争議行為と解されています(新興サービス事件・東京地判昭62.5.26判時1232号147頁、労判498号13頁)。