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見出し「限定正社員」制度

Q:「限定正社員」制度

「限定正社員」制度とはどのようなものなのでしょうか?

A:早急なルール形成が必要とされている制度といえるでしょう。

「限定正社員」は一般に従来型の正社員とは異なり、労働契約で職種や勤務地、労働時間等に関してあらかじめ限定されることから、企業は論理的には、それを超えて従業員に異動、転勤、残業等を命じることができないことになり、他方、職種や勤務地の仕事が消滅した場合などには、労働者は異動や転勤等で解雇を回避する余地がないことから、従来型の正社員よりも解雇が有効と認められる可能性が高くなります。リストラの普遍化にとって適合的な制度となり、従来型の正社員の解雇や労働条件の切り下げの手段として利用されることがあり得るため、早急なルール形成が必要とされている制度といえるでしょう。

限定正社員とは

今我が国の企業では「限定正社員」という名の正社員が広がりつつあり、例えばJIL(独立行政法人労働政策研究・研修機構)が実施した調査(2013年「『多様な正社員』の人事管理に関する研究」労働政策研究報告書NO.158)では、「勤務地限定正社員(一般職を含む)」のいる事業所は37.5%にのぼり、金融、保険、不動産、賃貸、医療、福祉などのサービス業の分野で事務・企画・現業部門に多いとされています。「限定正社員」は一般に従来型の正社員とは異なり、職種や勤務地、労働時間等に関して、使用者の包括的な人事権に服することを前提としない正社員を意味しており、職種や勤務地、労働時間等を限定としたうえで、従来型の正社員と同じように、企業と期間の定めのない雇用契約を結んで働くことになります。
これに対して従来型の正社員の場合、法実務上、リストラに際して行われる解雇(整理解雇)は、前述した通り解雇権濫用法理により規制される(労働法16条など)一方、長期契約を維持する手段として、企業には残業、異動、転勤等を命令する強力な権利が承認されてきたことから、あらかじめ仕事や勤務地等の働き方が定まらないという意味で、使用者の包括的な人事権に服し、「無限定」な働き方をするという特徴をもっているとされているのです(注)。

限定正社員の「特徴」

限定正社員の場合、労働契約であらかじめ職種、勤務地、労働時間が限定されることから、企業は論理的には、それを超えて従業員に異動、転勤、残業等を命じることができないことになり、他方、職種や勤務地の仕事が消滅した場合などには、異動や転勤等で解雇を回避する余地がないことから、従来型の正社員よりも解雇が有効と認められる可能性が高くなり、リストラの普遍化にとって適合的な制度ということができるでしょう。
このように限定正社員制度は、労働者側からみると、仕事や勤務地があるかぎり雇用が保障されるという意味で、いわば「そこそこ」の雇用保障がなされ、また同意なく残業や異動、転勤を要求されないという意味で、「拘束度の低い」働き方という特性を有していることになり、他方企業側からみると、従来型の正社員のような働き方をさせることができないという「制約」と、業務縮小や事業所閉鎖などの際に、解雇の可能性が広がるという特性を持つことになるでしょう(図表)。

限定正社員
 

限定正社員の「背景」

近年このような限定正社員制度が利用されるようになった背景としては、非正規社員の増加が著しく、総務省の「労働力調査」でも、パート、アルバイト、派遣、契約社員等の非正規社員が、1995年には20.9%であったものが、2014年には4割に達しようとしており(2014年11月現在、2012万人、38.0%、総務省「労働力調査」)、正規/非正規の雇用の二極化が進んでいる中で、特に後述する通り、雇い止めのリスクを負う非正規労働者の正社員への希望が強くなってきており(総務省前掲労働力調査では、2013年4~6月期には、約2割の342万人が正社員を希望している)、非正規社員に対する雇用対策は大きな政策課題となってきたことが指摘できるでしょう。
またワーク・ライフ・バランス政策の推進にとっても、育児や介護などの家庭責任を事実上負担している女性労働者の就労促進や、スペシャリストとしての専門性職の増加などの要因もあって、前述した限定正社員による雇用対策が目指されることになってきたのです。
特に流通業や飲食業などではこの動きが顕著であり、例えばユニクロは、国内店舗の販売員1万6000人のパート、アルバイトを勤務地、店舗、時間限定の正社員にすると発表しており、また、三越伊勢丹、西友、スターバックスコーヒー・ジャパンなども、相次いでパート、契約社員の販売員を限定正社員にする方針を打ち出しているのです(2014年3月20日付日経新聞)。
更に派遣業界でも、製造業やIT関連事業、介護などの分野への派遣人材を確保する目的で、派遣社員の正社員化が増加しており、例えば派遣大手パソナでは、職種限定正社員の採用を大幅に増加しており、スタッフ・サービスは介護職員4000人を限定正社員として採用することとしているのです(2014年3月22日付日経新聞)。

(注) 残業に関する日立製作所事件・最一小判平3.11.28民集45巻8号1270頁、配転に関する東亜ペイント事件・最二小判昭61.7.14労判477号6頁など。