ひげを剃らないと懲戒処分と言われた
Q:ひげを剃らないと懲戒処分と言われた
Aさんは会社で口ひげを生やして仕事をしていたところ、上司からひげを剃れと言われ、従わないと懲戒処分にすると言われました。どうしたらよいでしょう。
A:業務に支障がないかぎり、上司からの指示に従う必要はない
口ひげを生やしていても業務に支障がないかぎり、上司からの指示に従う必要はなく、拒否しても懲戒処分の対象にはなりません。
服務規律
一般に企業では、「服務規律」と称する従業員の労働義務の履行に関する行為規範が就業規則に定められ、その範囲は、就業の仕方、場所や会社の信用名誉の保持など広範かつ多様であり、また内容も、大別すれば、①服務に関する基本原則、②労務提供のあり方に関するもの、③労働契約上の信頼関係に関するものに分けることができます。具体的には無断欠勤、勤務中の飲酒、会社物品の私用持ち出し、機密の漏洩、出張命令の拒否等々の行動の規制等詳細なものであり、これらの規律違反に対しては、戒告(服務規律違反行為を戒めるもので、始末書提出を伴わない)、譴責(服務違反行為を戒め、通常始末書提出を伴う)、減給、出勤停止、諭旨解雇、懲戒解雇などが行われることがあります(労基法89条9号、労契法15条など)。
服装等の自由
上述した服務規律は労働者の人格的利益と衝突することがあり、かつては労働者の所持品検査等が問題とされたりしましたが、近年においては、企業における服装・身だしなみの規制などが、ひげ・長髪・茶髪など、労働者の自己表現との関係で問題とされるようになっているのです。
ところで労働者は、一市民としては、服装、ヘアスタイル・ヘアカラー、ひげ等について基本的に自由であり(自己決定権)、それが就業時間中に制約される根拠は、労働義務以外には考えられません。しかしそれを除けば労働義務に抵触するのは、労働者の選択した服装やひげなどが著しく非常識であるとか、当該業種における一般的慣行に反するなどの理由により、業務に支障を来すおそれがある場合に限られることになります。
本件では、口ひげを生やすことが仕事に支障をきたすと思われませんので、懲戒処分の対象とはなりません。