コロナ禍の過重労働
Q:コロナ禍の過重労働への対応はどうすればよいでしょうか?
私が勤務している職場では、コロナ禍の影響で、突然業務が繁忙になり残業が日常化しており、土曜日、日曜日も休むことができません。また、緊急の外回り等も多く、疲労が蓄積しています。このような状況が今後も続けば、病気になるのではないかと心配です。このような働き方は、問題がないのでしょうか?
A:過重労働により疲労が蓄積する状態を放置していると、正常な判断力が失われ、心身の健康が損なわれてしまいます。
過重労働により疲労が蓄積する状態を放置していると、正常な判断力が失われてしまいます。そのため、過重労働や過労で健康を損ねるような働き方を防止する必要があり、適正な労働条件の確保、労働者が安心して休めるような人事管理に向けた、労使双方の日常的な取り組みが必要です。長時間労働等の過労等により精神的、肉体的な疾患が生ずる可能性がある場合、使用者は、労働者の心身の健康が損なわれていないかどうかを把握し適切な措置をとるべき注意義務を負い、業務上の指揮監督を行う職制上の上司も、慎重な対応をすることが要請されており、適切な措置を怠ったために疾患や事故が生じた場合には、上記の注意義務に違反するものとして法的責任が問われることがあることを踏まえ、職場の労働条件等を就業規則等で確認し、使用者と雇用管理の適正化について話し合い、就業環境の改善に向けて対応してもらいましょう。。
健康安全配慮義務・メンタルヘルス
労働契約は、労働者が労働の給付に生存をかけているという意味では全人格的な関係をなすものであることから、使用者は、「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定され(労契法5条)、労働条件は、「労働者が人たるに値する生活を営むための必要を満たすものでなければなら」ず、「その向上を図るよう努める」ことを当事者に義務付けており(労基法1条)、このような義務を、今日一般に健康配慮若しくは安全配慮義務などと呼んでいるのです。
とりわけ今日、いわゆるグローバリズムに伴う急激な職場環境の変化の中で、メンタルヘルス(心や精神の健康)不全が世界各国の職場で深刻な問題となっており、精神疾患により医療機関にかかっている患者数は、近年大幅に増加しており、平成26年は392万人、平成29年では400万人を超えています。
内訳としては、多いものから、うつ病、統合失調症、不安障害、認知症などとなっており、近年においては、うつ病や認知症などの著しい増加がみられます(図表)。
図表 精神疾患を有する総患者数の推移(疾病別内訳)
したがって使用者は、過密労働やパワハラ・いやがらせ等により、労働者の心身の健康が損なわれていないかどうかを把握し適切な措置をとるべき注意義務を負い、業務上の指揮監督を行う職制上の上司も、労働者の心身の状況について正確な知識や情報を収集し、慎重な対応をすることが要請されており、適切な措置を怠ったために疾患や事故が生じた場合には、上記の注意義務に違反するものとして法的責任が問われることがあるのです。
例えば、過重労働がいわゆる過労死に至る場合や、電話交換手の頸肩腕障害、銀行業務に伴う両手、両肘、左肩の痛み、重量物を扱う労働者に生じた非災害性腰痛、保育園保母の頸肩腕障害、疲労による居眠り運転にもとづく死亡事故などでは、使用者の安全・健康配慮義務違反が認められています。
また使用者は、上記のような労働条件の設定だけでなく、健康や安全のための人的・物的措置や運用段階の中で、個々の労働者の健康状態を把握し、それに応じた措置をとることが必要とされ、例えば労働者が病気になる素因をもっていたり、すでに健康を害している場合には、使用者はそうした労働者の状況に対応して、職務から離脱させて休養をとらせるとか、他の軽易な作業に転換させるなどの配慮をする義務を負うことになり、この義務は、労働者からの体調異常などの申し出の有無に関係なく、労働者を就労させること自体から使用者に生じる義務とされているのです。
使用者がこうした健康・安全配慮義務を履行しようとすれば、健康診断を実施して労働者の健康を把握することが必要であり、使用者の健診実施義務(労働安全衛生法66条)は、このようなに理由よって裏づけられているのです。
過重労働に対する規制
このような問題に応えるべく、厚労省は平成14年の通達で、過労死防止のための周知啓発、窓口指導、監督指導に積極的に取り組む姿勢を明らかにし、さらに平成17年の労働安全衛生法改正を受けて(平成18年4月施行)、全面改訂された通達を出しており(「過重労働による健康障害防止のための総合対策」平18.3.17基発0317008号)、また、使用者には労働時間の状況の把握が義務付けられているので(改正労働安全衛生法第66条の8の3。平成31年4月1日施行)、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより健康リスクが高い状況にある労働者に対し、医師による面接指導が確実に実施されるようにすることで、労働者の健康管理が強化されています。このような通達や法律も手がかりとして、使用者に労働環境の是正を求め、職場の労働条件等を就業規則等で確認し、使用者と雇用管理の適正化について話し合い、就業環境の改善に向けて対応してもらいましょう。