偽装請負の疑いがあります
Q:偽装請負の疑いがあります
甲さんはA社に就職したところ、B社との請負契約に基づき、A社からB社に派遣されて、B社の施設内でB社の社員の指揮命令の下に仕事をしていますが、問題はないのでしょうか。
A:派遣法若しくは職安法違反の問題となるでしょう
A-B間では契約形態としては請負形態をとっているものの、発注企業であるB社が労働者甲を指揮命令するものであり、実態は労働者供給もしくは労働者派遣であり、いわゆる「偽装請負」に該当し、派遣法もしくは職安法違反が問題となります。
業務(処理)請負
業務(処理)請負とは、一般に請負者が、発注者との間で結んだ契約に基づいて、特定業務(処理)を請け負うことをいい(いわゆる「外注」)、この場合当該業務請負処理が、たとえば発注者であるB企業の事業場内で行われても、請負者であるA企業が自ら労働者を指揮命令して、自らの責任においてその業務を処理するかぎり、労働者派遣や労働者供給には該当せず、かかる請負を行うことは自由なのです(民法623条)。
したがって、業務処理請負が建前どおりに実施されるかぎり、労働契約上、使用者としての責任を負うのは原則として請負企業であり、発注者が使用者責任を負うことはないということになるのです(もっとも、発注企業は請負労働者に対し労働の場所を提供していることから、そのかぎりにおいて、安全配慮義務等の責任を負うことがあり得ます)。
「偽装請負」
しかし現実には、業務処理「請負」や「委託」という形式をとりながら、発注企業が請負企業の労働者を、自ら指揮命令して業務を行わせることが少なくなく、これがいわゆる偽装請負という問題です。偽装請負の実態は、労働者供給もしくは労働者派遣であり、わが国では古くから事業場内下請(社外工)の形で広まっていましたが、派遣法の制定以降も、依然として禁止されている業務に派遣労働を利用する等して派遣法の規制を免れるために広く行われ、とりわけ製造業への労働者派遣が解禁されて以降、社会的問題となってきたものなのです。このような請負や委託形態は、派遣や労働者供給事業と紛らわしいことから、請負との区別を明確にする法規制や(職安法施行規則4条)、行政当局による通達やガイドラインを定めて規制がなされてきていたものです。偽装請負のタイプには、次の通りさまざまなものがあります。
(1) まず業者Aが業者Bから業務処理を請負い(受託し)、自己の雇用する労働者XをBの事業場に派遣し就労させるものの、AはXの就労についての指揮命令(労務管理)を行わず、実質的にはBが指揮命令を行っている「労働者派遣」タイプが典型的なものです(図表)。
このタイプの「偽装請負」は、Aが自己の雇用する労働者Xを、Bの指揮命令を受けて労働に従事させているのであり、A―B間の契約は形式的には請負(委任)の形態をとるものの、実質的には、労働者派遣もしくは供給であり、派遣法もしくは職安法の適用が問題とされることになります。
(2) 次に業者Aが業者Bから業務処理を請負い(受託し)、その遂行を個人事業主である業者Xに下請けさせて(再委託し)、XがBの事業場で指揮命令を受けて業務処理に従事するという、「個人請負、多重請負」タイプもあります(図表)。
このタイプの偽装請負(個人請負、多重請負)は、契約形式としては請負の形態をとるものの、そもそも派遣法適用の要件である「自己の雇用する労働者」でないことから、派遣法適用の余地はなく、職安法が適用され、業としての要件を満たすかぎり、労働者供給事業として処罰の対象となります(職安法44条・64条9号)。
以上のような偽装請負は、業務請負や委託の契約形式で行われても、その実態からは労働者派遣もしくは労働者供給に該当することになり、しかもこれら偽装請負はいずれも、職安法施行規則4条や前記通達等の要件を満たさず、そのために違法な労働者派遣ないしは労働者供給とみなされることになるのです。
なお、改正派遣法では、偽装請負を行っている場合には、偽装請負が開始した時点で、派遣先事業主は、そのことについて無過失でないかぎり、派遣労働者に対して、派遣先における労働条件で直接雇用の申込みをしたものとみなす旨の規定(いわゆる「申込みみなし規定」40条の6)が新設されています(但し、施行は2015年10月1日)。